株式会社カナエ ~「INSサービス終了」対策を早期に実現、UT/400-iPDCで作成した帳票をダイレクトにFAX送信

COMPANY PROFILE

本社 :大阪市中央区
設立 :1956年
資本金:3億5381万4600円
売上高:272億9300万円(2019年10月)
従業員数:471名(2019年10月)
事業内容:医薬品・化粧品・食品・トイレタリー&ケミカル・メディカル用の包装資材の販売、包装機械の製作・販売、医薬品・医薬部外品・医療材料・化粧品・食品等の製造・販売
https://www.kk-kanae.jp/

創業64年目を迎える包装素材・パッケージングのトータルソリューション企業。医薬品・化粧品・食品・トイレタリー&ケミカル・メディカルの5分野を中心に事業展開を進める。CSRやSDGsにも積極的に取り組み、環境に関しては廃棄物削減や温室効果ガス削減、生物多様性への取り組みを推進。社会貢献では、東日本大震災で親を亡くした子どもたちを支援する「みちのく未来基金」などを推進している。

部分最適でシステム化

大阪城を見下ろす高層ビルの一角に本社を構えるカナエは、1956年にプラスチックフィルムを主体とした軟包装材料の加工・販売からスタートした会社である。その後、包装する製品の種類と事業領域を着実に拡げ、現在は医薬品、化粧品、食品、トイレタリー&ケミカル、メディカル用の包装資材の販売と、パッケージングから製品製造までの受託生産、そして各種包装機械の製造・販売の3つを事業の柱とする企業へと発展している。

同社は、包装資材の販売が主軸でありながら研究開発部門と品質管理部門をもち、包装材料から包装形態、包装機械にいたるまで「トータルにサポートできる」(システム部の小口哲央 部長)点が特徴であり、大きな強みである。

また、2019年1月からはSDGs(持続可能な開発目標)にも取り組み、植物由来の素材やゴミにならない材料の研究などを推進中だ。

システム面ではAS/400時代から20年以上にわたってIBM iを利用してきた。代々のシステム担当者が意欲的に開発とパッケージ導入を行ってきたが、その時どきのシステム化を部分最適で進めてきた結果、多様な技術とツール、パッケージが乱立し、効率の悪いシステムにもなっていた。

「業務システムが個々に独立していたので、月次決算処理では各システムで処理されたデータをExcelなどで加工するといった手作業が多く発生していました。そのために長年の課題であった決算の短期化を実現できないでいました」と、小口氏は話す。

小口 哲央氏
システム部
部長

本稿は、INSサービス(NTTのINSネットディジタル通信モード)終了のアナウンスに端を発するFAX送信システムの切り替えがテーマだが、それは約10年に及ぶシステム改革の成果のうえに実現しているものなので、先にそちらに触れてみたい。

基幹システム刷新プロジェクトから
業務改善プロジェクトへ 

同社では2008年の神戸工場の新設に合わせて「基幹システム刷新プロジェクト」をスタートさせている。スパゲッティ状態になっているシステム群を「統制のとれた一貫性のあるシステムへ切り替える」(小口氏)ためのプロジェクトであった。

しかし、このプロジェクトは5年後の2013年に「現行システムの継続」を選択して終了する。移行先としていたシステムは、ある開発ツールを使いIBM i上で新規構築する計画だったが、開発の途上で重大な懸念がいくつか生じ、最終的に導入を断念している。

「新しいシステムは、ツールベンダーがすべて構築するという契約内容でしたが、開発が進むにしたがって、開発会社の1人のエンジニアにノウハウが集中していることや、本番稼働後の改修・拡張が柔軟に行えない恐れのあることが大きな懸念となりました。当社のシステムは、得意先様や仕入先様の意向に合わせて作り込む必要があります。そこに不安があるのは問題となり、最終的に開発を打ち切りました」(小口氏)

2013年から既存システムの継承・再構築を念頭に置いた「業務改善プロジェクト」が新たにスタートした。プロジェクトのコアメンバーは、生産・開発・営業・業務・管理・システムの各部門から1人。その6名が約2年間にわたって週の半分を作業に当てるという大プロジェクトとなった。 

業務系の取り組みでは、外部からコンサルタントを導入し、各部門の業務の棚卸しから業務フローの見直し、システムの見直しへと進んだ。そのなかで各部門共通の業務と部門固有の業務とを細かく仕分け、共通する業務を「共通メニュー」として社内ポータルサイトに掲示することも行った。

システム系の取り組みでは、まず初めに各業務システムのコード体系を見直した。その結果、コード体系の一部を修正すれば、データをシステムからシステムへとつないでいけることが確認できた。

「データをつないでいければ、目的とするアウトプットを得るのは簡単です。データの連携を容易にするために、主だったシステムをIBM i上に集約させることにしました」と、小口氏は説明する。

2016年に、従来よりもマシンスペックを大幅に増強したIBM iを導入。その上に、生産管理、販売管理、会計、ワークフローなどのシステムからのデータを集約する統合データベースを構築し、それをBIツールにより見える化するシステムを導入して「業務改善プロジェクト」は終了した。

プロジェクトの完了後、従来20日かかっていた締め日から決算までの時間は3日となり、それまで1週間ほどかかっていた稟議・経費などの承認は1日以内に短縮された。

「2008年から続けられてきたシステム刷新の取り組みは当初の目標を達成し、次へ向かう基盤をようやく整備できました」と、小口氏は2016年当時を振り返り感想を述べる。

INSサービス終了を知り
すぐに対応へ動く

同社では、約600社ある仕入先への注文書や支払通知書などの送付を、従来は自社で自動FAXシステムを運用し、FAXで送信を行ってきた。仕入先から素材や原料を購入し、印刷や加工を行って顧客へ納品する同社の事業モデルのなかでは、きわめて重要なプロセスである。

そのFAX送信で利用している回線サービス(INSネットディジタル通信モードサービス)が2024年1月に終了することをNTT東西が発表したのは、2018年5月のこと。それを聞いて、小口氏はすぐにコクヨの帳票Web配信クラウドサービス「@Tovas」を思い出したという。

「ただし、@Tovasの概略は覚えていたものの、具体的に何をどうすればIBM iの帳票データを送信できるのか不明でした」と振り返る。

そうした折、既存RPGプログラムの解析・ドキュメント化のために2018年8月に導入し使い始めていた「SS/TOOL-ADV」の開発元(アイエステクノポート)の製品にIBM i用の帳票ソリューション「UT/400」があり、そのファミリー製品の1つに@Tovasとの連携オプションをもつ「UT/400-iPDC」があることを知った。さっそく、アイエステクノポートから詳しい説明を聞くことにしたという。

UT/400-iPDCは、IBM iのスプールデータにオーバーレイをかけて高機能かつグラフィカルなPDFを生成できるツール。オーバーレイは自由に定義可能。それと「@Tovas連携オプション」を組み合わせることにより、生成したPDF(帳票)を@Tovasへ渡し、相手先のFAX機やメールソフト宛てに送信できる。

「当社では既に別の電子帳票ツール(e-image)を使っていたので、UT/400の機能をフルに導入すると2重投資になってしまいます。しかし、UT/400-iPDCと@Tovas連携オプションだけの購入も可能とのことだったので、採用を決めました」(小口氏)

システム部の山田賢治氏(システム課主任)は、IBM iのスプールデータをUT/400-iPDCに取り込み、オーバーレイをかけてPDF出力するまでの部分の開発を担当した。

「オーバーレイの開発では、使用中の帳票のフォーマットをベースに、文字の大きさを変えたり不要な部分を消すなどの調整を行いました。全体にお絵描きするような感覚で使え、とても簡単に開発できました」と、感想を述べる。

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山田 賢治氏
システム部
システム課
主任

一方小口氏は、「@Tovasは通信部分をまったく気にしなくてよいので、そのために私はIBM i側のマスターとUT/400-iPDC側のマスターの連携だけに作業を集中でき、山田はオーバーレイまわりだけに集中できました。これに通信まわりの作業が加わっていたとしたら、担当がもう1人必要にだったと思います」と語る。

通信の精度が格段に向上
想定外の効果も 

図表2は、発注先マスターを登録するための従来のメンテンナス画面に、@Tovasとの連携用の項目を追加した新しい画面である。発注先のメールアドレス(画面中では「自動MAIL」)」と送信の種別を登録する項目が追加されている。小口氏は、「UT/400-iPDCはIBM i上で稼働するので、IBM iのマスターとの連携は容易でした」と話す。

@Tovasの利用開始は2019年9月。通信費の低減や省力化の効果はすぐに表れた。それに加えて「通信の精度が格段に向上しました」と、小口氏は語る。

「これまで、FAXが送れたかどうかを確認するにはOUTQ画面を直接覗く必要がありましたが、UT/400-iPDCは通信のステータスを@Tovas側に定期的に取りに行き、その結果をビジュアルに表示する機能を備えているので、ユーザーでも簡単に確認や対処が行えるようになりました。ただし不達の場合は、アラートメールが飛んでくるので、ユーザーが確認する前にシステム部のほうでリトライをかけ、アラートが2〜3回続いたら、ユーザーから仕入先様に発注書(PDF)をメールで送ってもらうようにしています」

また、「想定外の効果」もあった。従来のFAX送信では帳票が縮小されて出力されるので文字のつぶれや読みにくくなることがあったが、@Tovasは用紙のサイズいっぱいに出力するので、「見やすく、読みやすくなりました」という“感謝の言葉”が仕入先から寄せられたという。

さらに今回のコロナ禍では、仕入先の担当者が在宅勤務していることが多く、会社宛てにFAXを送っても確認が困難という問題が起きた。発注担当者からの「どうにかならないか」という相談に、「送信種別」の変更により仕入先担当者のメールアドレスに送信できることを伝え、対処した。

小口氏は、「システム部ではこれまで先手先手でシステム化に取り組むように心がけてきましたが、UT/400-iPDCと@Tovas連携オプションの導入は、うまく奏功しました」と語る。

システム部ではこの8月に、2台目のData Domainの導入を予定している。現在、IBM iからData Domainへバックアップしているデータを、遠隔地に配置する2台目のData Domainへ転送し、データの保全性をさらに高めようという計画である。

「医薬品製造に関わるビジネスでは年々、安全に対する基準が厳しくなっています。その流れを読み取り、事業をスムーズに進められる基盤をシステム部門として整備していきたいと思っています」と、小口氏は抱負を語る。

[i Magazine 2020 Summer(2020年7月)掲載]

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