連載コラム|探訪 Inside the IBM i ~(9)過去を振り返らず、すべて一から考えて開発する

フランク・ソルティス氏
フランク・ソルティス氏

前回、「AS/400(IBM i)の生みの親」として知られていたフランク・ソルティス氏に触れました。50代、60代の人にとっては、古き良き時代を思い起こさせる懐かしい名前でしょう。しかし40代以前の人にとっては、もはや聞いたこともない名前になっているようです。

ただし、そのソルティス氏らが取り組んだ技術的な革新は、今もなおIBM iの根幹技術として息づいています。そのことを考えるならば、ソルティス氏を思い起こし、その革新を辿ってみるのも意味があると思えます。

ソルティス氏は、「AS/400の生みの親」として何度も来日し、IBM iユーザーの前で講演を行っています。

IBM iは今年、AS/400の発表(1988年)から33年を迎えましたが、ソルティス氏は20周年(2008年)のときに来日し、「IBM i 次の20年へ ~AS/400 20周年 そしてその先へ~」というセミナーで、「iの遺伝子と進化の方向性」と題する講演を行っています。記録が残っているので、紹介しましょう。

ソルティス氏は冒頭、「今年(2008年)がAS/400の20周年であると同時に、その前身のシステム/38の30周年(1978年発表)」にもあたり、さらに、ソルティス氏がIBMに入社して40年目となる年(1968年入社)であることを披露しています。そして、入社当時の米国ミネソタ州を振り返り、現在のPower Systemsにつながる“開発のスピリット”へと話を進めています。

「1960年代のミネソタ州は、世界のスーパーコンピュータの開発拠点と見なされていました。そしてその中心にいたシーモア・クレイ(クレイコンピュータの開発者)は非常にユニークな人で、“過去を振り返らず、すべて一から考えて開発する”という開発哲学を実践し注目を浴びていました。当時、大学院でコンピュータ・アーキテクチャとオペレーティング・システムを学んでいた私は、このミネソタでの動きに強い関心を持ち眺めていたものです。この当時、世界最速と言われたコンピュータは9000個のプロセッサを備えるマシンで、広いサッカー場を埋め尽くすほどの大きさがありました。現在、これと同等の性能を持つPower Systemsは、ごく小さな筐体に収まっています。そして、そのPower SystemsのエンジンであるPOWERプロセッサはミネソタで開発され、Power Systemsもミネソタで開発・製造されています。AS/400やPower Systemsは、こうした伝統の上に花開いたマシンと言えるのです」

過去を振り返らず、すべて一から考えて開発する――このスピリットがソルティス氏らの間で最初に発揮されたのは、OSやプロセッサが世代交代になってもアプリケーションは変更なしに稼働する、という後方互換性の開発においてでした。ソルティス氏は、「それはAS/400の前身であるシステム/38の開発のときでした」と振り返ります。

「それは、ハードウェア独立のアーキテクチャということですが、この機構はシステム/38からAS/400に受け継がれ、iSeries、System iを経て、現在のPower Systems(IBM i)へと続きます。現在、「仮想化」がコンピュータシステムの大きな焦点になっていますが、AS/400は最初から仮想マシンであったのです。言い換えれば、世界初の商用の仮想マシンでした」

AS/400(IBM i)が仮想マシンであることの価値と偉大さを最初に示したのは、1995年に実施されたPOWERプロセッサへの移行においてでした。このときは、48ビットのCISCから64ビットのRISCプロセッサへの切り替えが行われています。

プロセッサを切り換えるというのは、例えて言えばトヨタ車のエンジンをベンツ車のエンジンにすげ変えるようなものですから、通常であれば車の機構(アーキテクチャ)の変更だけでなく、車の操作方法(アプリケーション)まで変更が必要になります。

ところがAS/400のユーザーは、AS/400(IBM i)のアーキテクチャが根本的に変更されてRISCマシンへと変身しても、CISCマシン時代のアプリケーションを変更することなく利用を継続できたのです。

「このプロジェクトにおいて、POWERプロセッサはAS/400用に改良され、AS/400もPOWERアーキテクチャに基づいて根本的に設計をし直しました。このときテクニカル・コンピューティング用に開発されていたPOWERプロセッサは、ビジネス・コンピューティングの要素も備えるプロセッサへと発展したのです。そしてその2年後(1997年)には、テクニカル・コンピューティング用のRS/6000(その後のSystem p、現在はPower Systemsに統合)もPOWER4を搭載し、ビジネス・コンピューティングにも本格的に対応し得るマシンになりました。その後、プロセッサ以外のコンポーネントでも共通化が進み、AS/400とRS/6000は急速に接近することになります。それが今日のPower Systemsへの合流につながります」

次回もソルティス氏らの挑戦に触れていきます。

[iS Technoport]

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