連載コラム|探訪 Inside the IBM i ~(4)現在のIBM iにつながる「シルバーレイク・プロジェクト」、10のマネジメント原則と5つの方針

 さて、「シルバーレイク・プロジェクト」と名付けられた新しいミッドレンジ・マシンの開発プロジェクトがスタートしました。このプロジェクトは、前回も述べたように「28カ月」という当時としては異例の短期開発を要請されたプロジェクトでしたが、従来にない斬新な取り組みを数多く導入してプロジェクトを完遂させます。それをこれから見ていきましょう。

 話は飛びますが、IBM iの前身であるAS/400がリリースされて4年後の1992年になって、シルバーレイク・プロジェクトの中心にいた人物、ロイ・バウアー、エミリオ・コーラー、ヴィクター・タンの3人が、『The Silverlake Project』というそのものズバリを書名にした本を公刊します(未邦訳)。

シルバーレイク・プロジェクト

 その本の冒頭で、著者らは「シルバーレイク・プロジェクトの10のマネジメント原則」を公開しています。プロジェクトのユニークさが端的に示されているので、抜粋してみましょう。

(1)ビジョンを持つリーダーの任命
(2)部門の壁を越えて最適の人間を登用し、明確に定義されたミッションを与えてビジョンを具体化する
(3)スタッフに権限を与える
(4)製品計画から販売、サービスまでを縦断するクロス・ファンクショナルな作業チームを複数設置し、活用する
(5)市場をセグメント分けし、その中の適切なセグメントに対して、自社製品(AS/400)をポジショニングする
(6)市場とそこにおけるビジネスを調査し、新たなビジネスモデルを確立する
(7)製品化のための優先順位を設定し、リソースを割り当てる
(8)プロジェクトの各プロセスをパラレルに進行させる手法を採用することにより、開発期間を短期化する
(9)外部、特にカスタマーとパートナーシップを組む
(10)カスタマーの期待を明確化し、その期待以上のものを継続的に提供し続ける 

 これは、現在にも通じるマネジメント原則と言えますが、当時としては「これがAS/400成功の理由」と著者らが胸を張るほどの画期性を持つものでした。逆を言えば、IBMにおける従来の製品開発は、これとは真逆の手法で行われていたということでしょう。言葉を換えれば、このプロジェクトの画期性は、製品・技術ドリブンの開発からマーケット・ドリブンへの転換とみることができます。

 たとえば、(5)と(6)の、当時のIBMミッドレンジ機ユーザーを分析した個所では、次のような記述があります。すなわち、IBMミッドレンジ機のユーザーは世界に22万社あり、そのうちの60%は海外のユーザー、85%が従業員5000人未満の中堅・中小企業で、その中堅・中小企業の成長率はフォーチュン500にランクされる大企業の2~3倍以上である、と。しかも、その中堅・中小企業のユーザーたちは、従来(1986年から見て「従来」)とは異なり、自分自身の判断でコンピュータ・メーカーを選択する経験と能力を備えるようになっており、また、情報システム部門以外の業務部門の人たちがコンピュータ導入の意思決定を行う兆候も出てきている、と(・・まるで現在の話を聞いているようです)。

 これを受けて、上記の本では、「我々の顧客は誰か?」「彼らの望むものは何か?」という2つの命題に本腰を入れて取り組むことになった、と記しています。

 そして改めて調査をした結果、世界のミッドレンジ市場には約5000万社の潜在ユーザーがあり、そのコンピュータの使用法を精査すると、100種類以上のアプリケーションを使っていることがわかり、うち40種類のアプリケーションは全顧客の約4分の3の購入意思決定と密接に関係していた、といいます。

 そこで、プロジェクトでは、ニュー・マシン(=AS/400)のターゲット市場を17の業種に絞り込むと同時に、カスタマーに対して次の5つを提供する方針を立てています。

・シンプルさ
・ソリューション
・高い生産性
・拡張性(成長性)
・サポート

 現在のIBM iにつながる、AS/400の形が見えてきます。

 

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